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2018年4月 4日

遺伝子-親密なる人類史-

◇◆第903回◆◇

4152097310遺伝子‐親密なる人類史‐ 上
シッダールタ ムカジー Siddhartha Mukherjee 仲野 徹
早川書房 2018-02-06

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遺伝子の伝記
遺伝子研究は21世紀の最重要分野となっています。いまや人類は自らの遺伝子を読み解き、そこに改変を加える技術を手にするようになりました。遺伝子が書き換えられるということは、科学の世界だけでなく、人類全体の社会と未来を左右することにつながっていきます。遺伝に関する流れの最初にあるのは19世紀半ばに発見された、メンデルの遺伝の法則とダーウィンの進化論です。本書は「遺伝子」という概念の発生から現在に至るまでの歴史を、大河小説のように読ませてくれます。本書の主人公は「遺伝子」であり、登場する科学者たちはその脇役です。

著者はインドから子ども時代に米国に移民し現在はコロンビア大学メディカルセンターの准教授をつとめるがん研究者です。デビュー作『がん‐4000年の歴史‐』でピュリッツァー賞を受賞しています。がんは遺伝子が暴走する病です。遺伝子にはいつ細胞分裂を開始し、どこまでいったらやめるのかというスイッチが組み込まれています。それがおかしくなり、分裂がとまらなくなったのが、がんです。これらのことも遺伝子の研究からわかってきたことのひとつです。

遺伝子はどのように作用するのか
本書では遺伝子研究の歴史が語られるとともに、サイドストーリーとして、著者の家系にある精神の病が語られます。父の兄四人のうちひとりが双極性障害(躁うつ病)、もうひとりが統合失調症、病気でない兄の息子(著者のいとこ)も統合失調症を患っています。精神疾患は遺伝の影響が強く出る病であり、著者がこれらの疾病を発症する危険性は家族歴のない人に比べると十倍以上になります。それらの事実と向き合いながら本書は執筆されています。

「氏か育ちか」というのは古くから言われてきたことであり、これは「遺伝か環境か」と言い換えることができます。本書の後半になると、遺伝子はそれほど単純なものではない、ということがわかってきます。浸透率という言葉で表されるように、ある遺伝子を持っていたからといって、それが表現型につながるかどうか、はかなり異なります。

著者の家系のような精神疾患の場合、発症するメカニズムは複雑で、まだわからないことの方が多いのです。さらに、精神疾患の場合、創造性と密接に関係している徴候があり、歴史に残るような天才には精神を病んでいたり、ボーダーラインであったらしい人が多く見られます。「狂気と天才は紙一重」と言われてきたのは一面の真実であって、もし、精神疾患をおこす遺伝子を排除しようとしたら、創造性をも排除することになりかねないようです。

遺伝子をめぐる歴史にはすでに20世紀に「優生学」としてホロコーストにつながった暗い歴史があります。表現型(体格、知能、性向、人種など)で人を選別し、社会が不適格とみなした者は抹殺してもかまわないという思想です。

これからの課題
21世紀に入り、人類はヒトゲノムをすべて読み取ることに成功しました。技術はどんどん進み、今では遺伝子を改変できるところまできています。その人一代で終わる遺伝子改変であれば、それはそれで終わってしまいます。しかし、生殖細胞に改変が加えられるようになると、それは人類全体の遺伝子プールが変わっていくということを意味します。

進化というのは、長い時間をかけていつしかそうした改変が自然のうちに積み重なり、いま地球に生きているすべての生命へと展開していきました。現在、人間はそうした自然の改変ではなく、人間の意志で自らの遺伝子を組みかえることができるようになっているのです。それをどこまでゆるし、どこまで受け入れるのか。

著者は遺伝子(ゲノム)の持つ相反する性格を記しています。そこには同じものを受け渡していくという不変性と、変わっていくことによる多様性が同時に存在します。---われわれのゲノムは相対する力のあいだのもろいバランスを保っている。鎖と鎖を対にし、過去と未来を混ぜ合わせ、記憶と欲望を闘わせる。ゲノムはわれわれが持っているものの中で最も人間らしいものであり、それをいかに管理するかは、われわれという種の知識と判断力を示す、究極の試金石となるだろう。


遺伝子‐親密なる人類史‐ 下
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