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2018年4月23日

がん-4000年の歴史-

◇◆第905回◆◇

4150504679がん‐4000年の歴史‐ 上 (ハヤカワ文庫NF)
シッダールタ ムカジー Siddhartha Mukherjee
早川書房 2016-06-23

by G-Tools

がんの伝記
がんが初めて人類の記録に登場するのは、紀元前2500年のエジプトです。治療法は「ない」とその医師は記しています。それから4000年あまり、「病の皇帝」と恐れられたがんの治療と原因について数多の医師、研究者が挑んでは跳ね返され続けてきました。本書は医師であり、がん研究者である著者ががんと人間の苦闘の記録をさまざまな角度から描き、ピュリッツアー賞を受賞した傑作です。

いまでもほとんどのがんの最初の治療は外科手術です。中世から外科手術はおこなわれていたようですが、それがより一般的に可能になったのは、19世紀に入ってからです。麻酔と消毒が発展したことにより、痛みのコントロールと術後感染症をおさえることができるようになりました。しかし、それでも転移の問題が立ちはだかり続けました。

がんの三大治療
現代、がんの三大療法と呼ばれるのは、手術、抗がん剤、放射線療法です。抗がん剤は手術できないがんである白血病の治療が糸口になりました。なすすべもなく亡くなっていた患者に、わずかながら寛解をもたらすことができるようになりました。19世紀末に発見された放射線はがん細胞を殺すことができることがわかり、治療に使われるようになります。

しかし、抗がん剤も放射線も「毒をもって毒を制する」類の治療であり、激しい副作用を引き起こしたり、がんが一旦治癒しても、再度別のたちの悪いがんを引き起こすことが珍しくありませんでした。1970年代、アメリカではがんに対して国家戦略として対がん戦争をおこない、がんを撲滅すべきである、というキャンペーンがはられました。しかし、多額の費用をつかったにもかかわらず、成果ははかばかしくありません。

がんの予防
それまで、多くの致死的な感染症が抑え込まれて行きましたが、それらは治療の成果というよりも予防の成果だったからです。がんを引き起こすものは何か、そこからあぶりだされてきた最大の犯人がたばこでした。いまにいたる禁煙運動の発端はここからでした。実際、喫煙率が下がることによってがんによる死亡が減っているのは明らかです。

二次予防としての検診も取り上げられています。子宮頸がんや乳がんなどを早期発見できる技術が確立していき、症状が出る前のがんを切除することが可能になりました。さらに、がんを引き起こすウイルスの存在も明らかになっています。肝臓がんの原因となるB型やC型の肝炎ウイルス、子宮頸がんの原因となるHPVなどです。ワクチンで感染を防ぐことによりがんも予防できます。

がんは遺伝子の病
20世紀の末からは分子生物学の発展によって、がんの原因にまで踏み込めるようになりました。衝撃的だったのは、がんは私たち自身の細胞が変化したものである、ということであり、それを引き起こすのは細胞の中の遺伝子変化であるということでした。がんは無秩序に増殖し、自分が本来いるべき場所から離れてどこへでも入り込みそこで増え続けるという能力を持ちます。

これらの能力は正常な細胞にそなわっている働きの一部がおかしくなったものです。細胞はいつ分裂し、いつそれをやめるべきかということを遺伝子プログラムの中に持っています。しかし、何らかの原因でそれが狂い、増殖をとめられなくなってしまったものががんなのです。ですから、がんはつきつめると遺伝子の病です。「死なない、老いない」という人間の永遠の願いをそのまま映し出したのが、がんだとしたら、なかなかに皮肉なことです。

いま、がん化のメカニズムの大きな骨格がほぼ明らかになりました。これからはそれをいかに画期的な治療法につなげていくのか、が課題になります


がん‐4000年の歴史‐ 下 (ハヤカワ文庫NF)
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