サピエンス全史
◇◆第900回◆◇
![]() | サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福 ユヴァル・ノア・ハラリ 柴田裕之 河出書房新社 2016-09-08 by G-Tools |
◆人類はなぜこれほど繁栄したのか
アフリカのかたすみで生きていた取るに足りない動物の一種だったホモ・サピエンス。それが地球全体に広がり、地球生態系をも左右するほどの繁栄を手にした理由について述べ、それゆえの今後についても考察しています。繁栄の理由をひとことで言うならば、進化の速度を超越する手段を身につけたから、です。
人間が他の動物を圧倒したことの理由に言語や道具があげられることはよくあります。しかし、多くの動物がコミュニケーションの手段として言語的なものを持っています。また道具的なものを使う動物もいます。さらにかつて人類は私達だけでなく、ネアンデルタール人などいくつかの種類がいました。
◆虚構を共有する能力
その中で私たちだけが生き残り、世界中に広がったのは「虚構」を考えつき、それを集団で信じることができる能力ゆえだ、と著者は喝破しています。虚構とは宗教に始まり、国家、国民、企業、法律、さらには人権、平等といったものまでも含みます。
他の動物、おそらくはネアンデルタール人でも、現実に目の前にあることは伝えたり考えたりすることができるのですが、こうした「虚構」について想定する能力がありません。そして、この虚構こそが見知らぬ人たちを結びつけ、協力することを可能にしたのです。
◆認識革命
私たちがいつこうした能力を得られたのかははっきりわかっていませんが、この認識革命のあと、ホモ・サピエンスは大きく広がり始めます。それは地球上のほかの生物にとっては災難だったかもしれません。進化のスピードを飛び越えて広がったため、アフリカ以外の大陸の大型動物たちはサピエンスに対抗できるほど進化する前に絶滅してしまいました。
「虚構」の最たるものは貨幣の発明でした。宗教も国家もある程度の大きさに広がることができますが、境界があります。ところが、貨幣は人種も国境も宗教、主義主張も超えます。究極の虚構であり、最も効率的な相互信頼の仕組みなのです。
◆農業革命から産業革命へ
長い狩猟採取生活の後、農耕生活への移行が始まりました。農耕への移行は生活の質からいえば劣化でした。食べ物の種類は乏しくなり、狭い定住地に集団で暮らすため、感染症が蔓延します。それでも増えた人口を養うためには農耕生活から後戻りはできなくなっていました。
その後、大きく生活が変わったのは産業革命でした。そこを境に文明は爆発的な進歩を遂げます。その時代にヨーロッパが覇権を握ったのは、「帝国、科学、資本」のフィードバックループにありました。科学の時代となり、人類は初めて「自分たちは何も知らない」ということを認めました。それ以前は、太古の叡智を学ぶことが教育であり、学習でした。進歩という思想はなかったのです。
◆科学革命
「未来は現在よりも豊かになる」と信じられるようになったことで、科学技術の発展を後押しする資本主義が隆盛を迎えました。そして、いまやそのスピードには年々加速がついています。紀元1000年に生まれたスペイン人がタイムワープで1500年のスペインにやってきても、すぐにその世界に溶け込めたでしょう。しかし、1500年から2000年にやってきたら、どうなるでしょうか。
いまや、人の一生ほどの間にさえ、すさまじい進歩のギャップが生まれています。30年前、インターネットはありませんでした。科学の手はホモ・サピエンス自身の内部にも及び、遺伝子を解析し、改変しようとする動きも始まっています。倫理でその手を縛ることができるのかどうか、それは恐らく無理でしょう。われわれは遠い先のことを見通す目など持っていないからです。
進化のスピードを超越している、という意味は本書の最後でも出てきます。私たちは進化によって異なる存在へと進むのではなく、自らの力で自らの遺伝子を改変し、あるいはAIなどとの合体によって異なる生物種に変わる可能性もあります。これらが単なるSFではなく、近い将来可能なこととして語られています。ホモ・サピエンスの歴史が終わり、新しい人類が生まれようとしているのかもしれません。
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