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2017年8月22日

無私の日本人

◇◆第897回◆◇

4167903881無私の日本人 (文春文庫)
磯田 道史
文藝春秋 2015-06-10

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百姓が武士にお金を貸す
三つの短編が収められています。なんといってもおもしろいのは最初の「穀田屋十三郎」です。この作品は2016年に『殿、利息でござる』として映画化されました。穀田屋十三郎は仙台藩吉田宿の造り酒屋の主です。さびれるばかりの吉田宿のありさまに心を痛め、八人の同士をつのって、仙台藩にお金を貸し、その利子で吉田宿を潤すという前代未聞の大事業を成し遂げます。

この事業の成就までが、まるで忠臣蔵のたくらみのようにおもしろいのです。厳しい身分制度の時代、百姓が徒党を組んで何事かを計画するなどというのは、大罪です。その中でひっそりと計画を温め、肝煎り、代官など藩の下に連なる官僚組織の代表者たちに粘り強くかけあいます。何度も挫折の一歩手前まで行きながら、ついにはこの大願を成就させるまで、ページを繰る手を止めさせない展開で描かれています。

ほんとうに大きな人間とは
著者は近世日本史を専門としており、この作品を書くに至ったきっかけが、吉田宿のある老人からの手紙であったとあとがきに記しています。その手紙には「これらの人々のおかげで吉田宿は貧困を脱し、江戸時代において人口を減らすこともなく現代に至っている」とあり、これらの人々についてぜひ書いて欲しいとの願いがしたためられていました。

これらの篤志家については、『国恩記』という文書が残されていました。彼ら自身は何も語らず、子孫たちにもそれらを吹聴してはいけないと遺言していたようです。しかし、彼らの志を忘れてはならないとの思いから、この文書が遺されたことは間違いないでしょう。

「ほんとうに大きな人間というのは、世間的に偉くならずとも、ほんの少しでもいい、濁ったものを清らかなほうにかえる浄化の力を宿らせた人である。」著者はそのように書いてこの本をしめくくっています。


無私の日本人 (文春文庫)
無私の日本人 (文春文庫)
磯田 道史

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