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2017年8月23日

戦争にチャンスを与えよ

◇◆第898回◆◇

4166611208戦争にチャンスを与えよ (文春新書)
エドワード ルトワック Edward N. Luttwak
文藝春秋 2017-04-20

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戦争という現象を倫理道徳論を抜きに見る
刺激的な題名で、「戦争反対」が絶対善とされる日本では拒否感を持つ人も多いでしょう。ただ、著者は戦争を純粋に「現象」として見ていると述べています。戦争がなぜ起こるのか、悲しいながら、原始時代から今にいたるまで世界のどこかで戦争は続いていますから、これは人間の本性に根ざしたものだと考えた方が現実的です。ただ戦争反対と叫んでも戦争がなくならないならば、戦争の本質について考え、それをうまく活用することを説いたのが本書です。

著者はルーマニア生まれのユダヤ人で、イタリアやイギリスで教育を受けたあと、アメリカに渡りアメリカで博士号を取得しています。専門は軍事史、軍事戦略研究、安全保障論です。戦争に関して、現在おこなわれている最も愚かなことは国連やNGOによる「人道介入」だと厳しく批判しています。これが戦争を終わらせるのではなく、戦争を中途半端に長引かせ、戦後の復興がなされないままにずるずると紛争状態が続いてしまう原因だというのです。

「人道介入」という最悪の欺瞞
その例として、朝鮮半島、パレスチナ、ユーゴスラビア、ルワンダなど数多くの例をあげています。人道的というお題目を唱えて無理に停戦させても火種は残り、本当の平和は訪れません。エネルギーは復興に向かわず、ただ相手をもう一度やっつけることに向けられてしまいます。本当の平和は徹底的に戦い、双方が「もう戦争は嫌だ」という気持ちになった後でしか訪れないというのです。

その例のひとつに第二次世界大戦末期の日本もあげられています。もし1944年の段階で中途半端な停戦合意がなされていたら、日本に戦時体制が、海外には植民地が残され、現在のような日本の姿は無かっただろう、と指摘しています。多くの人が亡くなり、徹底的に破壊された中から戦後日本が姿を現しました。

著者は戦争を「火」にたとえています。火は戦争当事国の「感情」です。燃える材料を燃やしてしまった後には自然に鎮火します。人道介入するならば、徹底的に介入する覚悟を持ってしなければいけない、とも説いています。50年間その土地に駐留し、根底からそこの文化を変えていくような覚悟です。世界のどの国もそんな力はありません。テレビで状況を見ているだけの市民に耳障りのよい「人道介入」は害悪しかもたらさない、というのが著者の最大の主張です。

戦争は平和をもたらし、平和は戦争をもたらす
人間は太古の昔から戦争と平和の間を振り子のように揺れてきました。生と死が切り離せないもののように、戦争と平和は切り離せないものなのでしょう。自国だけが平和でありたいと願ったところで、これは周りの国がどう出るかで変わってしまいます。現在の北朝鮮情勢などを見れば明らかなことです。平和を維持したいならば、それを維持するための戦略をたてなければいけません。

著者は戦略論が専門ですから、そのことについても多くのページをさいています。来日したときのインタビューをもとに構成されているため、中国、北朝鮮、ロシアなど日本を取り巻く状況についての分析もなされています。好き嫌いは別にして、著者が述べることを材料に考えを深めるのは大事でしょう。

蛇足
ただし、著者が述べているすべてのことに同意できるわけではありません。ヨーロッパの今後を懸念して、それは少子化と軟弱な文化の影響によるものと指摘し、「男は戦いを好み、女は戦士を好む」という時代錯誤な価値観を礼賛しているのです。これには違和感を覚えます。戦いを好む多産の文化が発展するというのなら、今発展していなければならないのは、現在貧困やテロにあえぐ貧しい国々の方です。

アメリカにおいてさえ、新しいものを生み出し、国を発展させているのはLGBTの権利を認め、寛大な文化を持つカリフォルニアやニューヨークといった地域です。硬直した価値観よりは、柔軟な価値観が社会を発展させます。「人道介入」を嫌うあまりの蛇足でしょう。


戦争にチャンスを与えよ (文春新書)
戦争にチャンスを与えよ (文春新書)
エドワード ルトワック Edward N. Luttwak

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