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2014年12月 5日

スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?

◇◆第878回◆◇

415209477Xスポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学
デイヴィッド エプスタイン 福 典之
早川書房 2014-09-25

by G-Tools

勝者を決めるものは複雑にからみあっている
結論から言うと、スポーツ遺伝子は勝者を決めません。遺伝的優位性というものは確かにあります。しかし、それだけで勝者が決まるほど人間のパフォーマンスは単純ではないからです。本書で中心的に取り上げられているのは陸上競技の長距離系(持久系)と短距離系(瞬発系)です。これらは最も遺伝的優位性が強く現れている競技分野です。長距離系種目で現在圧倒的な強さを見せているのはケニア、短距離系ではジャマイカです。彼らの遺伝的背景について詳しく書いてあります。

競泳で黒人選手が活躍していないわけ
著者はユダヤ系アメリカ人なので、アメリカンフットボールやバスケットボールなどについても書かれており、バスケットボールでは身長と同時にアームスパン(両手を広げた長さ)も非常に重要だということがわかります。そして、黒人はこの点で他の人種にくらべて優位です。彼らは身長比で手足が長く、胴が短いのです。その一方、競泳に関しては、胴が長く脚が短い方が優位だという統計結果が出ています。

ここを読んで、あれほど優れた運動能力を見せる黒人選手が、水泳ではほとんど活躍していないことに納得しました。遺伝的優位性を生かした競技に向かった方が、より優れた選手になれる可能性が高くなります。黒人であってもケニア・エチオピアなど東アフリカ系の人たちは長距離に向いており、ジャマイカがルーツとする西アフリカ系は短距離に向いています。アメリカの黒人のスプリンターたちもルーツは奴隷貿易によって連れてこられた西アフリカ系です。

どこまでが遺伝でどこまでが環境か
努力ではこの遺伝的差異を克服できません。チャンピオンとなるために重要なのは、その種目に遺伝的に適している人であること、トレーニングによって伸びるキャパシティを持っていること、厳しいトレーニングを継続できる能力を持っていること、これら三つです。これらが重なり合ってはじめてチャンピオンになれるといえます。

本書はトレーニングに関して巷で言われる神話と違う結果をいくつか示唆しています。瞬発系の筋肉を持っている人は足が速いので、他のスポーツ、たとえばサッカーなどでも求められる人材です。しかし彼らは、同じトレーニングをしても持久系の筋肉組成の人に比べて怪我をしやすいという特徴があります。トレーニングの適正量は人によって違うのです。

意志力さえも遺伝
ここで、トレーニングを継続できる能力を持っていること、つまり、意志力がある、ということですが、これにも実は遺伝的な差があります。本書では、これを人間ではなく、犬ぞりレースの犬をたとえにして論じています。努力できることも才能のひとつと言われますが、これは正しいようです。やればできるのに、という人は実はやれない人なのです。

これからの時代は、世界レベルで活躍するようなアスリートの養成のために、早期の遺伝子検査を行うようになるかもしれない、と思いました。有望な子供の遺伝子を検査して、よりその子に向いたスポーツに振り分けていくというようなことです。また遺伝子からそのアスリートに適したトレーニングメニューを組むといったことも考えられるでしょう。


スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学
スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?: アスリートの科学
デイヴィッド エプスタイン 福 典之

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