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2014年9月 7日

大西洋漂流76日間

◇◆第875回◆◇

4150502307大西洋漂流76日間 (ハヤカワ文庫NF)
スティーヴン キャラハン Steven Callahan
早川書房 1999-05

by G-Tools

海洋史上稀な長期漂流の記録
1982年2月4日の夜、嵐の大西洋で著者の乗る小型ヨットはクジラに衝突され沈没。救命イカダに逃れた彼の手に残ったのはわずかな水と食糧、ほんの数えるほどの道具だけでした。漂流者の90%が遭難からわずか三日で命を落とすといわれています。そんな中、著者は強靭な精神力であらゆる困難を乗り切り、生還します。次々と襲う危機、餓えと渇き、船と遭遇しながら発見してもらえない絶望感、それらとたったひとりで闘いながら、漂流をどのように乗り切ったのかを描いています。

著者は幼いころからヨットに乗り、海に出ていました。航海の経験は豊富であり、それが生還の一番のポイントでした。ヨットはカナリア諸島から大西洋を横断してカリブ海の島に至るだけの装備を積んでいました。それを取り出す間もなく、漂流せざるをえなくなってから、著者が最小限の装備を使ってあらゆる工夫をしながら生き延びる様子が驚異的です。

飲み水と食糧の確保
飲み水の確保には救命イカダに積み込んであった太陽熱蒸留器を使います。海は周りがすべて水ですが、それは塩分を含んだ水であり、飲むことはできません。青い砂漠、と形容しているゆえんです。太陽熱蒸留器は二台あるのですが、調子が悪く、あれこれと工夫してなんとか働かせます。

食糧はほとんど無く、魚を獲るしかありません。釣り道具は無く、手元にあった水中銃を銛代わりにします。一週間程度ならこうした緊急の装備でなんとか間に合わせることも可能でしょう。漂流が長くなるに連れてそれらの装備が片っ端から壊れ、修理が必要になります。最大の危機はイカダのチューブが裂け、空気が漏れ出した時でした。恐怖と疲労にさいなまれながら、手持ちのあらゆる道具を使い創意工夫の限りをつくして、なんとか空気漏れを止めることに成功します。

シイラを獲る
漂流の間主な食糧源となったのは、イカダの周りについて泳ぐようになったシイラです。シイラは、成魚では2メートルほどになる大きな魚です。著者は水中銃を使ってシイラを獲り、内臓から肉にいたるまですべて食べつくします。干し肉にして貯蔵することもします。カワハギやトビウオ、流れてくる海草についているエビやカニなど、食べられるものはすべて食べました。それでも食糧の中心になったのは、シイラでした。

同じ群れがイカダについて泳いでいるため、著者はシイラの個体を識別できるようになります。シイラと著者の間には不思議な関係ができあがります。シイラは流木や流れ藻につく小魚を狙って集まる性質があります。著者の乗る救命イカダがその役割をしているのでしょう。シイラを毎日見ながら、著者はさまざまなことを考えます。

たとえば、----本能は自身の生存を可能にする道具であり、その結果、「高度な機能」が維持されるのだ、とわたしはよく考えていた。しかし今では考えが変わった。命令を下し、生存を可能にするのはたしかに理性の力だが、わたしが何のために生きているかといえば、生命、仲間、安息、それに遊びといった本能の求めているもののためなのだ。シイラたちは、今そのすべてをこの海で持っている。自分が食べるものそのものになれたら、としきりに思う。---という具合です。人間はどんなときにも常に何かを考えずにはいられない存在、だと思います。

再び海へ
漂流から生還したあと、著者は再びヨットに乗る生活に戻っています。あんな目にあったのに、と思いますが、著者にとって海はなくてはならない存在なのです。船に乗っているときは港が待ち遠しくてたまらず、港へ着くと今度は海が恋しくてたまらない、と書いています。乾いたベッドで数晩眠ると、海の呼び声が聞えはじめ、そしてふたたび海に出る、そういう生活を続けてきたのです。「なぜ山に登るのか」「そこに山があるからだ」という有名な問答と同様の、言葉にするのが難しい何かに心をつかまれている、著者はそうした人のひとりなのでしょう。


大西洋漂流76日間 (ハヤカワ文庫NF)
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スティーヴン キャラハン Steven Callahan

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