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2014年8月29日

トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか

◇◆第874回◆◇

4635047466トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)
羽根田治 飯田肇 金田正樹 山本正嘉
山と渓谷社 2012-07-23

by G-Tools

大量遭難の背景にあったもの
2009年7月16日、北海道の大雪山系・トムラウシ山で18人のツアー登山者のうち8人が亡くなるという夏山登山史上最悪の遭難事故が起きました。低気圧の通過で山は台風並みの暴風雨となり、その中でガイドも含む8人が次々と倒れていきました。本書はなぜそのような状況に陥ったのかを検証し、今後の教訓を浮かび上がらせようとしています。大量遭難の現場の状況を描くとともに、気象状況、医学・生理学分野の専門家も執筆陣に加わって、単なるドキュメントではないものになっています。

このコースは二泊三日の行程で、避難小屋に泊まりながら大雪山系を縦断し、最終日にヒサゴ沼避難小屋からトムラウシ山を越えてトムラウシ温泉に下りるというものでした。参加者は50代~60代の15名、ガイドは3名です。二日目から雨になり、最終日も雨の中を出発し、悲劇は起きました。問題は複合的なものでした。まず、なぜ出発したのかということ。悪天候が予想され、避難小屋にとどまるという選択があったにもかかわらず、なぜ出発したのでしょうか。

ツアー登山が抱える問題点
それはツアー登山という形態が持つジレンマが背景にありました。本来、登山は自分で下調べをし、準備を整え自己判断で行うものです。しかし、90年代以降の急激な中高年の登山ブームで、そのコースを歩くには技術的・体力的に不十分な人までもが、どっと山へ押し寄せました。それでも請け負って登らせてしまうというツアー会社も多いのです。

この事故を起こした会社が特別悪質だったというわけではありません。どこの会社でも起こりえる事故だったと思えます。決まった日程で、往復の交通機関や旅館などの手配もすべて済ませて大勢の人間が動くのです。日程を延ばせば、これらの手配をやりなおさなければなりません。ツアーは観光地巡りならいいですが、天候に大きく左右される登山には無理な方式といえそうです。

登山は天候が荒れなければ、技術・体力が十分でなくても、まず無事に終わります。リスクが急激に高まるのは悪天候のときです。この遭難事故の場合、多くの不運が重なり結果的にこうした事態になりました。本書の中では、同じような気象条件の中を歩きながら、生死を分けたのは何だったのか、という視点からも考察を行っています。遭難死した人たちの死因は低体温症でした。低体温症のメカニズムについても解説されています。

低体温症を防ぐ
山に入って三日目、前日から雨になっており、当日の遭難地点周辺では台風並みの暴風雨が吹き荒れていました。その中を歩くことは大変な体力を要します。登山というよりは格闘技でもやっているようなもの、との記述があります。それに見合うカロリーが摂取できていなかった可能性が指摘されています。カロリーが足りないと熱量産生がうまくいかず、低体温症を招きます。

また、風が強いため、身体が濡れていると急激に体温を奪われます。雨具は防寒着ではなく、その下にフリースなどを着込む必要がありました。防寒着を持っていながら、それを十分活用できていなかった人もあったようです。これらについては、第4章低体温症状、第五章運動生理学のところで詳しく書かれています。行動するためだけでなく、低体温症を避けるために食べることがこれほど重要とは認識を新たにしました。

アウトドアで危険から身を守るのは自分自身
コースの下調べは十分しておく。体力・技術力を養っておく。濡れないようにする。着替えを持つ。防風・防寒着を持つ。しっかり食べる。天候を見て無理をしない。これらが遭難を避ける重要なポイントです。ただし、これらを実際の登山で、悪天候になったときにできるかどうかが問題です。歩くのもやっとというような暴風雨の中で、着替えたり、行動食を摂ったりするのは容易なことではありません。

ツアー登山に参加する場合、ガイドに頼りきりではダメです。アウトドアでは基本的に、自分の身は自分で守るという感覚を忘れないようにしなければいけません。この遭難事故でも、朝の天候に不安を覚えながら、ガイドの出発の指示に異議を唱えた人はありませんでした。予定が狂う、ということを恐れていては本当の危機から身を守れないのでしょう。

トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)
トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか (ヤマケイ文庫)
羽根田治 飯田肇 金田正樹 山本正嘉

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