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2014年6月10日

人類進化700万年の物語

◇◆第865回◆◇

479176773X人類進化700万年の物語 私たちだけがなぜ生き残れたのか
チップ・ウォルター 長野敬
青土社 2014-03-20

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生き残った唯一の人類
直立歩行する最初期の人類が現れたのは400万年から700万年前といわれています。私たちホモ・サピエンスが現れるまでに20種類以上のさまざまな人類が現れては消えていきました。そのさまざまな人類について述べ、なぜ私たちだけが残ったのかについて考察しています。進化の不思議な導きが私たちを唯一の人類として生き残らせました。それは一見不利なのではないか、と思うような進化の道筋を通っています。

祖先にあたる類人猿が直立歩行を始めたのは、密林が消えてサバンナになったからだと考えられています。ジャングルでは手近なところに食べ物があります。しかし、サバンナでは、暑く照りつける太陽の下、食物は乏しく、襲われる危険性も高くなります。素早く移動するため、さらには捕食者を避けるために常にまわりを見回せる二足歩行は都合がよかったのです。

欠乏が加速させた脳の発達
食事の量を6割程度に減少させると、寿命が30%以上も伸びることが実験でわかっています。同時に繁殖力も減退して配偶行動も減ります。栄養の極端な欠乏は動物の寿命を伸ばし、子どもの数が減ることによって進化の競争のもとで種全体が生き残る可能性を高めるのです。緊急事態の中で生命全体がなりをひそめ、欠乏の嵐が過ぎ去るのを待ちます。しかし、唯一の例外があります。脳細胞の成長は増大するのです。

密林がなくなって、サバンナに出ざるをえなくなった類人猿が直面した慢性的な食糧不足が、彼らの脳の成長を加速させたと想像できます。絶滅の危機に立たされたとき、進化の飛躍がおこりました。さらに、二本の足で効率よく歩くためには、骨盤の構造を根本的に変える必要がありました。直立した歩行は腰を細くします。腰が細くなると産道が狭くなり出産が困難になります。直立歩行によって獲得した大きな脳と狭い産道という矛盾に行き当たったのです。

生理的早産がもたらす利益
ここで、進化の力は逆説的ともいえる選択をします。早い時期に子どもを世の中に送り出すようになったのです。母体の産道という物理的限界に迫られた結果でしたが、これがさらに人類の発展を助けます。現生人類の新生児はあらゆる動物の中で最も無力な状態で生まれます。寝返りさえできず、すぐさま世話をしてもらわなければ、一日か二日のうちに死んでしまいます。

こんな状態の子どもを持つことは、大きな負担のように思えます。しかし、それを補って余りある結果がもたらされました。早く生まれ、脳の柔軟性が高い長い幼少期を持つことによって、私たちは知能、創造性、複雑さのレベルで他に類を見ない存在になりました。幼少期が長くなるだけでなく、成人になってもなお学び続けるという性質も得ることができました。多くの点で私たちは一生子どものままです。私たちのユニークさはいつも発達の状態にとどまっていることであり、完成に至ることがありません。

進化的選択の二つのタイプ
進化的選択にはふたつのタイプの環境下でのものがあります。ひとつは十分な空間と食物があり、競争がほとんどない環境でおこなわれます(r選択)。もうひとつはそれとは全く逆の危険で厳しい環境でおこなわれます(K選択)。r選択は手近にある資源を利用するためにできるだけ素早く十分な子孫を作るように働きかけます。一方、K選択は資源の欠乏下では死ぬしかなかった少数の種を優遇し始めます。厳しい環境を生き抜くために、K選択は私たちを「単胎出産の反復傾向、親が徹底的に面倒を見ること、長い寿命、成熟の遅れ、高度な社会化の傾向」という特徴をもった存在にしました。

現生人類の発生に、滅亡の淵にたつほどの危機が不可欠の役割を果たしたというのは、興味深い説です。恵まれすぎていると、大きな飛躍は起きない。進化のランダム選択なのですが、人生の教訓にもできそうな一面を感じます。


人類進化700万年の物語 私たちだけがなぜ生き残れたのか
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