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2014年5月13日

日本の曖昧力

◇◆第861回◆◇

4569708293日本の曖昧力 (PHP新書)
呉 善花
PHP研究所 2009-04-15

by G-Tools

曖昧であることの力
著者は韓国・済州島生まれ、83年に来日しました。本書は、拓殖大学国際学部教授として「日本の文化と歴史」と題しておこなった講義がもとになっています。日本の最大の魅力を「曖昧さ」であるとしているのには、意外な気がしました。日本人の表現が曖昧であることは日本人自身が自覚しています。そして、そのことは日本の、日本人の欠点であると内外から指摘され続けてきました。しかし、著者は日本的な曖昧さは、いまの世界が陥っている限界を切り開く「曖昧力」として積極的に評価すべきである、というのです。

日本の地理的・歴史的ユニークさ
日本は中国、韓国などと同じ東アジアに位置しています。そのため、これらの隣国と考え方も似ているのではと思いがちです。しかし、実際のところはかなり違うと著者はいくつかの具体例をあげています。日本は世界的に見てもユニークな存在で、他のどの国にも似ていません。その理由を国の位置、気候風土から説き起こしています。日本は温帯モンスーン地帯の海の中に散らばる島国です。四季の変化がはっきりし、歴史的には他国から侵略を受けたことがありません。

前農耕アジア(縄文時代)の日本
体系的に日本を理解するために、三つの指標があると著者は言います。第一は欧米化された日本、もうひとつは中国や韓国と似た農耕アジア的な日本です。これらは外国人でも理解できる日本です。しかし、日本にはもうひとつの顔、前農耕アジア的日本というものがあります。これは縄文的日本であり、海洋に開かれた「ヤポネシア」としての日本です。この部分が他の東アジアの国々とは決定的に違っています。

縄文時代は今からおよそ一万二千年前に始まり、日本列島全域にいきわたっていました。同時代の朝鮮半島にはこうした統一した文化は無く、沿海州にもありません。また、中国大陸に漢民族の統一文化ができたのは紀元前後のことです。日本文化は中国大陸から流入した文化によって形作られたというのがこれまでの定説でした。しかし、それ以前に日本文化のオリジンがすでにあり、大陸から流入した文化はそこへ継ぎ足されたものと考えるべきなのです。

日本人の美意識
著者は、経済大国日本、技術大国日本、というものの前に「美の大国日本」がある、と言います。日本人の持つ美意識をあらわす言葉として、「もののあはれ」「わび・さび」「幽玄」「いき」といった言葉があります。何を美しいと感じるか、が日本と他のアジア諸国とでは大きく違っています。日本以外のアジアの国で共通する美の基準は「鮮やかな色彩」「きらきらとした輝き」「均一に整った(左右対称)の美」「完成された不動の美」だとすれば、日本人は「中間の色や曖昧な色」「鈍色に沈んだ美」「左右非対象(歪み)の美」「常に生成変化をやめない未完成の美」「地肌(生)のままの美」こそ美しいと感じます。曖昧さの美学です。

こうした美意識のオリジナルが前農耕的アジア、つまり縄文時代に求められると著者は見ています。そして、その特異な美意識が現在の日本人の中にも脈々と受け継がれている、といいます。たとえば、なぜ日本人は誰に言われることがなくても列をつくって待つのか。それは、何より美しくないことを嫌うからです。勝手に列に割り込むのは醜い行為であり、そこには身勝手な自由があるだけで、内面の自由はありません。それ以外にも、時間を守らない、親しき仲で礼儀を欠いている、約束を守らない…、これらの行為は日本社会では「だらしがない」と嫌われます。

調和を重んじる日本人
日本は主要15カ国中、殺人、強盗、強姦、詐欺といった犯罪の発生率がいずれにおいても最も低い国です。日本人は原理原則や普遍的な価値観については随分いい加減に見える一方、社会的なルールは厳格に守ります。日本社会の秩序は何かの決まりごとで守られているというよりも、生活する人々の自律的な調整作用によって自動的に保たれている、と著者は指摘しています。日本人が調和を重んじるというのはこの点にも現れています。

一見主体性がないように見えるため、個性がない、という批判を受けることもあります。しかし、事実はそうではありません。日本人は「私が一番優秀だ」と主張するのではなく、「私一人では何もできません。みなさんのおかげです」と言って、バランスのよい社会を作り上げます。利己的でないところで個性的なのであり、他者と調和できる「主体性」を持っているのです。これらの背景には自然と人間は一体であると感じ、生かされているというある種の「根源的な受け身志向」があります。

日本が成し遂げたことに誇りを持って
この講義を受けた日本人の学生(受講生には留学生も含まれている)の多くは、「高校までは日本の悪いところばかりを教わってきた。どうしてこういう見方をこれまで教えてくれる人がなかったのか」と言うそうです。日本人自身でこういう見方をすることはなかなか難しいでしょう。鏡に映してみないと自分の姿は見えないようなものです。

本書のしめくくりに著者は、「日本には世界に誇るものが何もないと考えるなら、それはよほど日本を知らない日本人(アジア人、西洋人)ということだ」と書いています。戦後、世界一貧富の差の小さい平等な社会を実現した経済、外国はもちろん自国民にもいっさい銃口を向けることのない軍隊、伝統的な職人技から世界最先端のテクノロジーを抱える技術の宝庫、世界で最も治安のよい安全な社会…、日本には世界に誇れ、世界に伝えて貢献できるものがたくさんあります。

自慢は日本の美意識からはみっともないことであるため、こういうことをひけらかさないのが日本人です。しかし、自慢することと自信を持つこととは違います。穏やかに自信を持って、対立ではなく、いつも調和を目指してきた日本人の美的感受性、日本文化のあり方を世界に伝え広げていってもらいたい、と本書は結ばれています。


日本の曖昧力 (PHP新書)
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呉 善花

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