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2013年10月10日

人生は廻る輪のように

◇◆第823回◆◇

4042920012人生は廻る輪のように (角川文庫)
エリザベス キューブラー・ロス Elisabeth K¨ubler‐Ross
角川書店 2003-06

by G-Tools

人生に偶然はない
エリザベス・キューブラー・ロスの自伝です。彼女は死とその受容に至る心理的過程について研究し、ホスピスケアの重要性を世界に知らしめた第一人者として知られています。しかし、彼女自身は「死とその過程の女」、死の専門家とみなされることを第一章で明確に否定しています。それでは彼女の仕事を半分しか説明したことになりません。彼女は多くの死に至る患者たちと接するなかから死後のいのちの存在を確信し、後半生はその研究にたずさわったからです。彼女は自身の仕事を「生の重要性の研究である」と本書の冒頭に書いています。

死とその過程について彼女が講義を始めたのは1962年のことでした。当時、死について語ることはタブーでした。死は医学の敗北とみなされ、できるだけ触れたくないものとして、予後不良の患者もまた病院では無視される存在だったのです。そこに光をあてたのが彼女でした。病院の医師たちからは拒絶され、死に直面している患者を利用していると非難されました。しかし、それでも死を前にした人たちの心のうちを聞くことは、亡くなっていく人を支えるだけでなく、医療者や家族などもそこからさまざまなことを学べるとの信念から、彼女はその活動を続けました。今では「死とその過程」に関する分野は医療関係を学ぶ人にとっては必須の事柄になっています。

三つ子として生まれる
彼女は1926年スイスのチューリヒで三つ子の長女として誕生します。出生時体重はわずか900g。三つ子として生まれることは悪夢であると書いています。両親さえ誰が誰なのか見分けられないような状態の中で、自分とは何者なのかを証明していかなければならなかったからです。しかし、この出自が後の彼女の性格・行動を形作っていきました。人生に偶然はない、起こったことは起こるべくして起こったことだ、と彼女は何度も書いています。

拒絶され迫害されても、自分が正しいと思ったことには身体を張って取り組んでいく、そうした下地はこの中で育まれました。医師になりたいという希望を父に許されなかったとき、死に直面した患者のケアの重要性に気づいたとき、エイズに苦しむ人たちを見たとき、彼女は嫌がらせや脅迫にも屈しませんでした。

医師になる前、スイスで生まれた彼女は、第二次世界大戦が終わったばかりで疲弊している近隣の国々へボランティアに出かけています。そこでナチスの強制収容所を訪れ、生き残りの少女と話したりもしています。チューリヒ大学医学部で夫となるマニーと知り合い、結婚してアメリカに渡ります。彼女がスイスで三つ子の長女として生まれ、第二次世界大戦直後の時代を生き、その惨状を自分の目で見、その後アメリカに渡るという人生を歩むのも、「人生に偶然はない」という彼女の言葉を裏打ちしているように思えます。こういう背景を持った人だったから死という医学界のタブーに切り込んでいくことができたのです。

彼女は最初小児科医になるつもりでした。ところが、研修医に合格したときに妊娠し、結果的にはそのために精神科の研修医として採用されることになります。ここで絶望的とされる統合失調症の患者たちに共感をよせ、じっくり話をきくことで彼らの9割以上を回復させました。真摯に話を聞くという姿勢が、その後の死を待つ患者のケアに活かされました。

死後のいのちの研究へ
「死とその過程」の講義で、シュウォーツ夫人というICUを15回も出たり入ったりしていた人から、初めて臨死体験の話をきいたことが、「死と死後のいのち」への研究のきっかけになりました。それまで医学者として、あの世や輪廻転生など全く関心が無かったと書いています。ところが、シュウォーツ夫人の話す内容が現実に見ていたとしか思えないことだったため、死後のいのちの存在を認めざるをえなくなったのです。

その後も実にさまざまなことが起こりました。死後の生というスピリチュアルな話に抵抗を感じる夫との離婚、自身の対外離脱体験、詐欺や殺人未遂、エイズをめぐるさまざまな迫害や脅迫、自宅の放火などです。それでもなお、彼女はこう言います。「だれだって生きていれば辛苦を経験する。つらい経験をすればするほど、人はそこから学び成長するのだ。逆境だけが人を強くする。」

生は過酷であり、生は苦闘です。生は学校に通うようなものであり、幾多のレッスンを課せられます。学べば学ぶほど、課題はむずかしくなります。大きな喪失に直面したとき、人にできるのは、拒絶して責める相手を探すか、傷を癒して愛することを選ぶかのいずれかです。放火によって研究成果の資料や生涯の思い出の品々をほとんどすべて失ったとき、彼女は後者を選びました。存在の唯一の目的は成長することにある、それならば、何であれ起きたことは受け入れて次に備える、それがエリザベス・キューブラー・ロスらしい人生なのです。


人生は廻る輪のように (角川文庫)
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エリザベス キューブラー・ロス Elisabeth K¨ubler‐Ross

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