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2013年9月26日

「地球のからくり」に挑む

◇◆第820回◆◇

4106104725「地球のからくり」に挑む (新潮新書)
大河内 直彦
新潮社 2012-06-15

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エネルギーを巡る地球と人類の物語
著者は海洋研究開発機構のプログラムディレクターです。本書には地球の営みと人間の暮らしがどのような原理で結びついているのかを、エネルギーを軸として平易に書かれています。エネルギーというのは、電力やガスや天然資源というものだけでなく、食料や生物圏の活動そのものも含んだ、地球環境の総エネルギーを表しています。人類の文明発展の歴史は、地球環境からエネルギーを人工的に取り出す仕組みの発展の歴史と言い換えられます。

窒素肥料の誕生
狩猟採集生活であった時代、人類の営みは他の動植物と同じレベルでした。しかし、農業を始めたときから、それは変わってきます。農業とは自然環境に人為操作を加え、人類にとってより都合のよい作物を作り出すことです。産業革命以降、工業的なエネルギー利用は爆発的に変化しました。しかし、農業においても革命的な技術がそこで生まれていたのです。

それはアンモニア合成によって窒素肥料を作り上げたことです。これは20世紀初頭に可能になりましたが、この技術が開発されていなければ、現在の地球人口は30億人ほど少なかったはずだと言われています。飛躍的な食糧増産を可能にしたアンモニア合成の技術は、同時に爆薬製造も可能にし、大量の爆薬が戦争への道を切り開いていったのは皮肉なことです。

30人の奴隷
現代の先進国に暮らす私たちは、エネルギー収支から見ると、何もかも自分の肉体を使ってやるしかなかった大昔に比べると、ひとりで30人ほどの奴隷を使っているのに等しいといいます。その30人の奴隷の役割をしているのが各種の機械であり、それを動かしているのが天然資源です。天然資源は太古の昔に生物が蓄えた太古の時代の太陽エネルギーです。それを地中から掘り出しては使って、私たちはこの便利な世界を実現しています。窒素肥料の合成にも天然資源は必要です。

現代社会は地球が蓄えた太陽エネルギーを取り崩しているからこそ、70億人もの地球人口を支えられているのであり、さらに一握りの豊かな国が先進文明を享受できているのです。本書の天然資源と人類の文明の推移について読んでいくと、原子力利用が注目を集め、放射能の危険性を冒しても何とかそれを利用しようと考えた人が多いというのも理解できます。現在地球上に70億人の人間が暮らしていることは事実であり、先進国の人間はその豊かな生活を手放したくないと思っており、天然資源はいずれ枯渇するとわかっているならば、それに代わるものを見つけなければなりません。

エネルギーの綱渡り
アンモニア合成の成果が窒素肥料だけでなく多量の爆薬も生み出したように、ものごとには光の部分だけ、クリーンな部分だけ、というのはありえないのでしょう。原子力をこの先どうするのかは、現代の私たちが考えることです。再生可能エネルギーはまだ天然資源の役割を代替できるにはほど遠い段階です。

地球人口のことも考えに入れなければなりません。今は、少子高齢化と日本では盛んに言われ、もっと子どもを生むべきとされていますが、地球人口全体から言えば、それは果たして正しいことなのか? もし、地球人口が30億人ほどであったなら、現在人類が直面している問題の大きさももう少し小さく時間的余裕も出るように思います。

エネルギーを巡る問題はすべての問題の根底にある大問題である、ということがよくわかります。これからのエネルギー問題を考えるために、参考となる一冊です。


「地球のからくり」に挑む (新潮新書)
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