« 世界史をつくった海賊 | トップページ | 機械との競争 »

2013年6月21日

グリム童話の世界

◇◆第807回◆◇

4004310415グリム童話の世界―ヨーロッパ文化の深層へ (岩波新書)
高橋 義人
岩波書店 2006-10-20

by G-Tools

メルヘンは何を語っているのか
「シンデレラ」「白雪姫」でおなじみのグリム童話。これらは19世紀にドイツのグリム兄弟が編纂したメルヘンです。今も世界中で愛されているこれらのメルヘンが本当は何を語っているのかを考察しています。冒頭に「メルヘンはキリスト教の敵?」とあります。メルヘンには古代ゲルマンの神話の影響が残っています。ヨーロッパがキリスト教化される以前にあった土着の信仰です。支配者層がキリスト教を受け入れてからも民衆の間では、より生活実感に近いこれらの素朴な神話や信仰が受け継がれ続けました。

キリスト教は布教する際に土着の信仰の行事をキリスト教の行事として巧みに取り込んで行きました。クリスマスも復活祭もそうした形をとってキリスト教化されたものです。ヨーロッパの人々は意識の表層こそキリスト教徒であるものの、意識の深層ではいまだに異教徒的な古代ゲルマンの信仰を持ち続けており、それがメルヘンの中に残っていると著者はいうのです。

古代ゲルマンの信仰というのは、アニミズムです。これは特別にゲルマンに限定しなくても世界中にあり、日本の原始神道などもそれと同じ系統のものです。人間はもともとそうした元信仰というか、宗教の原型とでもいうものをどの民族でも持っています。自然発生的な信仰心とはこういうものでしょう。そこに後の世になって特定の教祖が唱えたキリスト教のような宗教が起こり、それが国家権力と結びついて広まっていったのです。キリスト教やイスラムといった一神教タイプの宗教では他の神を認めるわけにはいきませんから、元からあった信仰・宗教は弾圧され、表層からは姿を消しました。

メルヘンとは何か
メルヘンとは何かについて著者はこのように定義しています。
1)メルヘンとは集団記憶である
  メルヘンには人々が飢饉などの危機に陥ったときの記憶が刻まれている
2)メルヘンとは夢である
  メルヘンでは危機に陥った人を動植物などの自然が助けてくれる
3)メルヘンの秘密は不可能を可能にしてくれる魔法にある
  もっともメルヘンらしいメルヘンは魔法昔話である
4)メルヘンは神話的である
  魔女退治、龍退治は最も神話的なモチーフである。また「死と再生」「苦難のあとの栄光」などもよく用いられ、これらを可能にするのは魔法である
5)メルヘンでは時も場所も人物名も不明である
  「むかしむかしあるところに」で始まる物語は、すべての人にあてはまる普遍の物語となる
6)メルヘンは伝説、聖人伝と並んで「単純形式」と言われる文学ジャンルに属している
  単純形式では過剰な文学的装飾は省かれ、それによって読者の想像力はかきたてられる
7)メルヘンはハッピーエンドで終わる
  メルヘンは過酷な現実を乗り越えたいという民衆の夢が描かれているため、結末は常にハッピーエンドでなければならない。
8)メルヘンがハッピーエンドで終わる以上、帰環したものは常に「いい者」である

グリム兄弟がメルヘンを編纂するまでは、これらのメルヘンは文字化されることなく、炉辺や糸つむぎをしながら語られる「声の文化」でした。グリム兄弟はその原型を保存しようとしたのですが、書いてメルヘンを固定化することにより、どうしても文学的な装飾や脚色と無縁ではいられませんでした。それらのことを考慮しながら、本書ではメルヘンは本当は何を語っているのかを考察しています。


グリム童話の世界―ヨーロッパ文化の深層へ (岩波新書)
グリム童話の世界―ヨーロッパ文化の深層へ (岩波新書)
高橋 義人

関連商品
NHKカルチャーラジオ 文学の世界 グリム童話の深層をよむ―ドイツ・メルヘンへの誘い (NHKシリーズ)
昔話の深層 ユング心理学とグリム童話 (講談社プラスアルファ文庫)
完訳 グリム童話集〈1〉 (岩波文庫)
完訳 ペロー童話集 (岩波文庫)
初版 グリム童話集〈1〉
by G-Tools

« 世界史をつくった海賊 | トップページ | 機械との競争 »

人文・思想」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 世界史をつくった海賊 | トップページ | 機械との競争 »