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2012年12月10日

認知症の人が安楽死する国

◇◆第779回◆◇

4876723192認知症の人が安楽死する国
後藤 猛
雲母書房 2012-10-25

by G-Tools

オランダの医療・介護・福祉
筆者は仙台生まれでオランダ在住40年、精神科医であったオランダ人の妻を卵巣がんで亡くされ、それをきっかけに本書を執筆しています。副題が「オランダの医療・介護・福祉に学ぶ」となっているように、本書を読むと日本のそれらは何と遅れているのか、という思いにかられます。オランダは患者の意志による安楽死が認められている国です。その背景にはオランダ文化の基礎にある個人の意志を徹底的に尊重するという考え方があります。

延命第一の日本の医療にはさまざまな批判があります。しかし、その背景には「自分で考え自分で判断し意思表示をはっきりさせる」ということを回避しがちな国民性があるように思います。嫌なことには蓋をして先延ばしにする、はっきり口にしない。これは死や介護といったことに特に表れています。誰でも老い、病み、必ず死ぬのに、それにともなうことをあらかじめ考えておくことがほとんどありません。こういうことは元気で体力があるうちに考えておくべきことなのです。

自分で考え自分で決断することの重要性
個人個人がこれらのことを真剣に考え学んで初めて社会的な合意や制度が整っていきます。本書の中で著者は日本人の「あなたまかせの幼児性」について鋭く批判しています。何でも専門家にまかせ自分で考えようとしない。まわりはどうだろうか、と自分の考えよりも周りの「空気」を読もうとし、それにあわせて行動することを多くの日本人がまず第一とします。ですから、日本では自分の考えをしっかり持つことよりも周りの空気を読めることの方が重要視されてきました。

ただ、本書を読んで、オランダのような制度を日本が導入できるかというとかなり難しいだろうとも思いました。オランダの制度はオランダ人の国民性・文化に根ざしたものです。さらに、著者はオランダがよくてオランダに移り住んだ人ですから、勢い日本の欠点を鋭く指摘する文章になっています。

文化・国民性の違い
人間でも国でも同じですが、ある人(国)に簡単にできることが別の人(国)には越えがたいハードルになります。たとえば、本書でも日本の歴史のヨーロッパ的感性では理解しがたいような変遷ぶり(日本がヨーロッパと交流を持って以後の歴史)についてこう書かれています。

---明治を迎え、日本は、小国オランダでは駄目だと250年の関係をあまりにもあっさり捨てた。ちょうど廃藩置県で大名制度をあっさり切り捨てて華族制度に切り替えたような、外国人にとっては理解できない日本の歴史がある。この華族制度も戦後になってポイッと捨てた。(中略)世界では、このような改革には革命が必要だし反抗する人が山と出てくる。---

ヨーロッパ文明の功罪
話は飛躍しますが、ヨーロッパやイスラムの宗教戦争が日本人になかなか理解できない背景はここにあると思いました。一神教の文化・文明の下では妥協はないのです。オランダの制度を著者は何度も「嫌になるほどに具体的な」と書いています。妥協のない徹底的に白黒をはっきりさせずにおかないヘブライ・ギリシャ思想の流れをくむヨーロッパ文明の下だから、そういう徹底的な議論と具体性が受け入れられるのではないでしょうか。

利点と欠点は裏表です。日本の現状がこのままでいいとは思いません。しかし、明治維新や敗戦後の混乱期に「革命」が起こっていたら日本はどうなっていたでしょうか。帝国主義の時代、東西冷戦の時代という背景の中で生き残ることができたでしょうか。ヨーロッパ的思考では不可解と思えるような歴史的制度的曲芸であっても、それが「日本」なのです。

また、子どものころからアフリカの飢餓に苦しむ子どもの写真をずっと見てきて、どうしていつまでたってもこういう状態から抜け出せないのだろう、と不思議に思ってきました。いつまでも内政が安定せず、小競り合いが続いて飢餓から抜け出せないのはなぜなのか。

本書で第二次世界大戦で日本の軍隊から受けた扱いを恨みに思っているオランダ人の話が出てきます。確かに扱いはひどかったのかもしれません。しかし、彼らは故国にいたわけではありません。彼らが占領して植民地としたアジアの国にいたのです。アフリカが飢餓や貧困から抜け出せない背景には隣り合ったヨーロッパの植民地政策の残影がまだまだあります。そういうことも頭の隅において読んでいい本でしょう。


認知症の人が安楽死する国
認知症の人が安楽死する国
後藤 猛

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