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2012年11月24日

心の病の「流行」と精神科治療薬の真実

◇◆第777回◆◇

4571500092心の病の「流行」と精神科治療薬の真実
ロバート・ウィタカー 小野 善郎
福村出版 2012-09-19

by G-Tools

精神科の薬物治療について再考を促す
500ページを超える本ですが、内容を一言で要約すれば「精神科の治療薬が心の病を悪化させている可能性があり、そのことについてよく検討すべきである」ということです。うつが全く珍しい病気ではなくなり、日本でも精神科の治療を受けている人は少なくないと思われます。しかし、よかれと思って服用している薬が逆に脳の化学反応を混乱させ、病を慢性化させている可能性があるとしたら、皮肉なことです。

治療薬が逆に病を慢性化させている
本書には数多くの事例が載っています。特に昨今小児に学習障害や情緒障害などの診断が下され、それに対する薬物治療が行われるようになりました。それによってその子が「よくなる」のではなく、単にそのときおとなしく、扱いやすくなるだけで、長期的には精神的な障害者への道を歩んでいるリスクがある、と指摘しています。

精神科の治療に薬物が用いられるようになったのは、20世紀後半になってからのことです。統合失調症や双極性障害に治療薬が登場し、精神科治療の革命と言われました。その経緯も本書にくわしくあります。「もしほんとうに画期的な治療薬なのだとしたら、患者は癒え、社会復帰し、精神疾患をわずらっている人の数は劇的に減っているはずである。しかし、実態はまったく逆で、患者数は爆発的に増加している」と著者は述べています。

精神病の原因が何かはまだわかっていない
薬物治療が精神医療に取り入れられたのは、精神とか心のはたらきというものは、脳の化学反応が生み出しているものである、という仮説にあります。しかし、薬物治療が始まって半世紀以上たっても、精神科治療薬が脳内の化学的アンバランスを正すという具体的証拠は見出されていません。また、統合失調症や双極性障害が脳内の化学物質のアンバランスによって起こる、という確たる証拠もありません。

本書では、外科や内科といった身体を主に扱う医者のように精神科医もなりたかったのだということが述べられています。証拠に基づき具体的な何かを行って、「治療」をしていると堂々と言いたい。それが製薬業界の利害と結びつき、精神科治療薬の大繁盛を引き起こしました。

治療薬の功罪を知る
精神科治療薬が全く有害でしかない、と著者が言っているわけではありません。それらの治療薬は適切に用いれば、危急の場合に効果を発揮します。しかし、常習的に長期に渡って用いるべきものではない場合が多くあります。

脳内の化学物質のバランスに操作を加えようとすると、脳はそれに対抗してバランスを調整しようとします。そのため、脳内の化学物質のバランスはますますゆがみ、服用者を混乱させます。さまざまな精神科治療薬をカクテルで服用し、混乱に拍車がかかってしまい、精神症状を慢性化させてしまうのです。

薬物治療を中心とせずに効果をあげる治療
本書の最後に、薬物治療は補助的なものとして留め、別のアプローチによる治療をおこなっている施設の事例が出てきます。これらはごく少ないものですが、治療効果をあげていることが示されています。そのひとつ、フィンランドのある施設では、患者の「生きがいの発見」に力を注ぎ、対社会関係の修復をはかります。

精神科治療薬主体の治療をおこなう病院との最も大きな違いは、患者を「人間」として扱い、人と人との間を癒すことに力を注いでいることです。これらの施設の回復率は高く、それが何ゆえか理論的に説明することは難しくても、回復して社会復帰がなされているというのは、素晴らしいことです。

ヒーリー精神科治療薬ガイド
ヒーリー精神科治療薬ガイド
デイヴィッド・ヒーリー 田島 治

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コメント

kazoo320さん、コメント頂きありがとうございます。

「病気が教えてくれる、病気の治し方」は興味深い本でした。自分の外側が間違っているだからそれを変えさせようとほとんどの人は考えます。でも、真実は違う。外側の世界を変えようと思っている限り何も変わらない、そういうことですね。変えられるのは自分のものの見方だけ。

精神薬にかぎらず、どんな薬も元々は毒ですからね
本気で病気を治そうとするのなら、自分が病気を作り出している事に気がつかない限り、完治は無理ですね
そういう意味では「病気が教えてくれる、病気の治し方」はぜひとも読んでもらいたい本の1冊です

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