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2012年5月29日

水彩学

◇◆第755回◆◇

4487799759水彩学 よく学び よく描くために
出口雄大
東京書籍 2007-08-23

by G-Tools

透明水彩画を巡る歴史・技法・自伝
著者は透明水彩を用いて主に具象画を描くイラストレーターです。本書は透明水彩画に絞ってその成り立ち、欧米における発展と歴史、明治以降の日本の水彩画の盛衰、著者自身の水彩画に関する自伝、水彩画の技法書、といった内容が320ページの中にもりだくさんに入っています。技法だけが知りたいという人のためには、裏表紙から横書きで書かれたそちらを手っ取り早く読めるようにもなっています。

水彩画と著者の出会い
西洋美術史を一般教養程度でざっと見るとき、中心になるのはやはり油絵だと思います。フランスやイタリア、あるいはスペインやオランダがその場合中心になるのですが、水彩に関しては英国が中心にあります。著者の父は英文学者であり、著者のデビューはその父が書いた紅茶のエッセイに描く挿絵だったといいます。

親の七光り、といえなくもないですが、それ以前に芸大を目指して三度受験に失敗しているという経歴の持ち主でもあります。自伝編にはこのあたりのいきさつがおもしろく書かれていました。人生、何がどう転ぶか、どことどこがどうつながっているかわからないもの、とここでも思います。

漱石との縁
明治の水彩画について書かれたところでは、夏目漱石が何度も登場します。父の紹介でロンドンの漱石記念館にしばらく滞在し、ヨーロッパの絵画を見てまわったことが著者が本格的に水彩画を描き始めるきっかけになっています。漱石自身が水彩画を描いており、その背景には当時日本で一大水彩画ブームがおこっていたことがあります。

最近の水彩スケッチブームはこの明治時代のブームの再来ではないか、と記しています。さらに水彩葉書ブームというものもあり、これは現代の絵手紙ブームを思わせます。現代の絵手紙、ぬりえ、トレース水彩画というものを見て著者なりの見解も書いています。そして、「デッサン」が写真の隆盛を経た現代においても、絵にとってはやはり大きな課題としてある、ということがわかります。

デッサンが絵に占める位置
デッサンと同時に絵を構成するものとして「色」があり、それだけに的を絞って形を離れた色のみや質感で遊ぶというのも絵のひとつのあり方です。二十世紀の抽象美術はそこから始まったといえます。しかし、そこばかりでもやはり行き詰ります。三次元の物体を二次元に写し取りたいというのは、人間にとって絵を描く大きな動機だろうと思います。

デッサンについては、技法編でも取り上げられています。デッサンには大きく分けて二つの方法があります。線で描きこんでいくグリザイユ的方法(輪郭法)と、面で描くアラプリマ的方法(色彩デッサン法)です。これは西洋画に限らず、日本画にも水墨画にもあるように思います。ものをどのようにとらえて描いていくのか、を考えるとき、この二つの方法のどちらかに重点を置いて私たちは描いているのでしょう。

絵画の技法を考えるだけでなく、人の運命や歴史、偶然のめぐり合わせ、などさまざまなことを考察することもできます。読み手によって活用の仕方が随分異なるだろうと思えます。私家版の水彩百科全書のようです。


水彩学 よく学び よく描くために
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出口雄大

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