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2011年8月24日

美人画―描き方と鑑賞

◇◆第718回◆◇

4817036133美人画―描き方と鑑賞
今野 由恵
日貿出版社 2007-06

by G-Tools

美人画は日本独特の人物画
美人画とは、広義に解釈すれば女性を美しく描いた絵画ということになります。しかし、本書が対象とする美人画は伝統的な日本画のジャンルにおいて、独自の発展史と様式を持った他に類例のない人物画である、と著者は述べています。本書では序盤で美人画の歴史、その特徴、画材について取り上げ、その後著者の作例を参考に実際に美人画を描けるように工夫されています。下絵もあり、それをコピーすればすぐに表紙のような美人画の下絵を手にすることができます。

美人画は浮世絵から発展しました。明治に入ってそこから脱皮した新しい美人画を革新発展させたのは鏑木清方でした。彼の門下からその後の美人画の様式を確立する多くの画家が生まれました。伊藤深水、山川秀峰、寺島紫明らがその筆頭といえます。深水門下からは岩田専太郎、立石春美らが出て活躍し、秀峰門下からは志村立美が出ました。一方、京都画壇からも多くの画家が出ていますが、著者が特筆しているのは現代日本画を代表する画家上村松園です。

美人画は何を描いているか
美人画の特徴は、誰か特定の個人を描くわけではないということです。美人画というくらいですから、美しい容貌を描くことが絵の生命ですが、現実のモデルとの肖似性にとらわれてはいけません。むしろ、特定の美を超えた美しさを追究するところに美人画の本領があります。美人画が表現しようとする美しさを著者は仏像に例えています。たとえば観音菩薩像の持つ慈悲と無限の優しさ、どの観音さまも特定の肖似性を超えているからこそ、誰もがそこに謙虚に慈悲の心を感じることができます。

美人画の容貌の美しさについて著者は「誰もが心を清められるような感情を覚えるような美しさ」を求めたい、としています。日本人は歴史的、民族的に共通する美意識として「清楚」「清澄」「端麗」「気品」「たおやかさ」「透明感」などの美的概念を理想的な美の価値としています。こうした美の概念や心象を描き表そうとするのが美人画です。写実でありながら生の写生ではなく、そこから汲み取ったものを自分自身の眼と意識を通して組み立てなおすことが大切です。

端麗で清潔な美しさ
これをふまえた上で描線、彩色、背景についてそれぞれ述べられています。日本画、特に美人画における線描の大切さを著者は強調しています。線質が容貌や作品の雰囲気を決定します。線描は構図の輪郭ではなく、画家の感慨や思想など内面性をすべて露わにします。美人画の描線は基本的には「濃淡を誇張しない、ゆっくり落ち着いた、静かで清潔な細い線」で描きます。

こうした言葉を読んで、その後に登場する著者の作品を見ると、「端麗で清潔な美しさ」をより意識して見ることができます。美人画が単なる若いきれいな女の容姿を描いた絵というのではなく、日本人の美意識の根幹に触れるものである、ということがよくわかります。浮世絵や明治の時代からは時間がたち、現代では和服すら滅多に着ることはなくなっています。しかし、それでも歴史的、民族的に培われた美意識というものは、今も連綿と途切れることなく続いている、と思います。

美人画―描き方と鑑賞
美人画―描き方と鑑賞
今野 由恵

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コメント

履歴書の書き方さん、コメントいただきありがとうございます。
ぜひまたお越しください。

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。

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