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2011年5月 1日

修復家だけが知る名画の真実

◇◆第711回◆◇

4413040821修復家だけが知る名画の真実 (プレイブックス・インテリジェンス)
吉村 絵美留
青春出版社 2004-01

by G-Tools

絵画修復の過程で明らかになること
絵画修復家とは、絵の表面についている汚れや他者の加筆を落としたり、キャンバスや紙の損傷を直したり、油絵の場合は亀裂や剥落の進行を止めるといった仕事です。修復するためには、冷静に客観的に絵を見る必要があり、芸術家であるよりは、科学者、技術者に近い存在であるとまえがきにあります。描かれた瞬間から絵は劣化していくものであり、私たちが歴史上の名だたる画家の絵画を鑑賞できるのは、こうした修復家の助けがあってのことです。

修復にあたっては細心の注意がはらわれます。X線、紫外線、赤外線、顕微鏡、溶剤分析など、先端科学技術を使い、画家がどのような絵具を使ってをどういう順序で描いていったのかを分析します。この過程で思いもかけない新事実が発見されることも珍しくないようです。幻の作品がひとつの絵の裏に描かれていたり、贋作であることがわかったりするなど、この部分はミステリーのようでもあります。

描き方によって傷みやすさに差が出る
画家の描き方によって傷みやすい絵、修復に高度な技術を要する絵など、油絵とひとくちに言ってもさまざまのようです。油彩画は堅牢なものと思われていますが、本書を読むと必ずしもそうとはいえないのかもしれない、と感じます。厚く盛り上げるような描き方をしていると絵具がなかなか乾かず、展示方法が不備だったために絵具が溶け出してしまった例があげられています。また、表面の凹凸が激しいため、汚れがつきやすく、絵具が乾いたとしても今度はひび割れがおきて剥落しやすいようです。

絵具を混ぜると傷みやすいため、油絵の中ではスーラのような点描画はもっとも損傷がおきにくく、修復も容易です。意外にも大変傷みやすく修復にも高度な技術が必要な作家として、藤田嗣治があげられています。彼の絵は陶板のように平滑で絵具の厚味もタッチもほとんどないのですが、非常に目の細かい麻のキャンバスに硬く下塗りして描かれているため、支えきれずに下から割れてくるという運命にあります。

画家はそれぞれ自分の描きたいものを描きたいように描くために、画材や描法を選択しているのは当然でしょう。しかし、修復家の視点を持って絵を描いていれば、作品の傷みを少なくできるのだろうと感じました。また、修復家として多くの有名な画家の絵を見ていると、彼らの持つ独得の描法、技術はもちろん、その精神までかいま見ることができるようです。


修復家だけが知る名画の真実 (プレイブックス・インテリジェンス)
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吉村 絵美留

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