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2009年8月26日

創造する無意識

◇◆第607回◆◇

4582761402創造する無意識―ユングの文芸論 (平凡社ライブラリー)
Carl Gustav Jung   松代洋一(訳)
平凡社 1996-03

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無意識が創造に与える影響
無意識というものが芸術創造に与える影響について考察したユングの論文集です。現在の芸術論に大きな影響を与えており、天才的芸術家がときに悲劇的な生涯を送らざるをえないことの理由の一端が理解できます。さらに、後半では一般人が創作活動を通じて無意識領域を知り、それを自身の生活の問題点の解決に活かしていく必要性と方法論にも言及しています。

天才的な芸術家というのは、彼や彼女の個人的な選択や意志によってそういう存在になるのではない、ということがわかります。それは自然なり神なりによって指名されてしまった人、民族や時代の重荷を背負い、叫びをあげることを余儀なくされた人とでも解釈ができます。彼らがその創作をおこなうのは集合無意識からの巨大な働きかけによるものであり、突き動かされるような衝動によって創作をおこなう面があります。

彼らが普通の幸せな人生を目指そうとせず、時には破滅的な生活に陥ることもあるのは、一般人からすれば異様なことに思えるのですが、それもある程度仕方のないことなのかもしれない、と納得できます。芸術家はときに多大な幼児性を残しており、素晴らしい創作物を生み出したからといってその人が必ずしも人格的に優れているというわけではありません。世渡り技術は無能なままという人も珍しくないでしょう。

集合無意識の噴出口
ユングは天才の発達の力点が創作物を生み出すことにはなはだしく偏るため、それ以外の部分に向けられるエネルギーが枯渇するようだと言っています。実際、天才が世俗的な”幸せ”に恵まれるのはむしろ珍しいことだと言った方がいいようです。彼らの創作物は、彼らの意識的な”意志”や”意図”のみで生み出されたものではありません。

そしてひとたび生み出されると創作物の方が大きな力を持つようになります。それらは、天才という噴出口を通じてこの世に生まれ出た人類の集合無意識の産物といえるからです。もちろん、天才個人が持っている個性はその人の作品を際立たせています。モーツァルトはどこを聴いてもモーツァルトですし、ゴッホはその隅々までゴッホです。さらに彼らは自らの創作活動に普通人ではとうてい耐えられないほどの献身を持って挑みます。

これらの点を考えると天才的な創造力に恵まれるというのは、凡人がうらやむほど結構なことではなく、むしろある種の”災難”や”犠牲”の一面も持っているのかもしれないと感じます。彼らは火をもたらすプロメテウスであり、十字架にかけられるイエスのイメージに近いというべきでしょう。ただ、創造活動の火花が散っているときに天才自身が味わう喜びはそれを補ってあまりあるものかもしれませんが。

無意識と対話する必要性
無意識と意識の連合から生じるものを「超越機能」として後半の論文でとりあげています。無意識は意識を補完する性格を持っており、意識がある方向を目指す性質を持っているため、それに不都合なもの、反対のものは無意識領域に抑圧されています。この抑圧がはななだしいものになると、無意識領域が意識へ侵入してきて危機的な状況を引き起こすことがあります。

無意識と対話するのは一種のガス抜きとして必要なのかもしれません。ですから、それは終りの無い作業であり、定期的なメインテナンスのようなものといえます。

どうやって無意識内容を手に入れるか
ユング自身も活用した無意識との対話の方法が述べられています。アートセラピーなどで用いられる方法はこれを基にしたものか、と思いました。素材にするのは夢、あるいは自由に連想する思いつきです。それらは無意識領域から漏れ出てくるものだからです。

・夢や空想を書き留める
・絵を描く---できる限り入念に
・安静時(夜が望ましい)に浮かんでくる内的イメージ、声を書き留める
・手を使って可塑性の物質を利用しイメージを形にする
・自由な身体の動き(ダンスなど)で表現する

こうした表現は美的なものを求める”芸術”とは異なっています。意味を求めるのにも慎重でなくてはいけません。ある人にあてはまることが違う心性を持った人にはまったくあてはまらないことがあり、ユングは無意識領域から出てくるものに対し、すぐに「本当か」とか「正しいか」とか言いたがるのを差し控える必要がある、としています。意識はそれまで意識されなかった内容に相対すること、さらにはそれを統合しようとすることによって絶えず拡大されるのです。


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カール・グスタフ ユング Carl Gustav Jung

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