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2008年5月18日

病気はなぜ、あるのか

◇◆第468回◆◇

4788507595病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解
ランドルフ・M. ネシー ジョージ・C. ウィリアムズ Randolph M. Nesse
新曜社 2001-04

by G-Tools

進化医学の入門書
進化医学とは、病気の原因解明に進化的視点を盛り込もうとするものです。医学は、例えばメタボリックシンドロームの原因として、カロリーの多い食事、運動不足などをあげます。一方、進化医学はなぜ人間は脂肪や砂糖を好み、運動不足に陥るような傾向をもっているのかを、進化の立場から明らかにしようとします。病気のより根源的なところに迫るものであり、病気の予防、治療に異なる立場から光をあてるものといえるでしょう。

現代人の心身機能は石器時代人と同じ
進化医学は、石器時代人の繁殖可能性を最大にするものは何であったか、という視点からすべての病気を見ています。私たちの生理機能はアフリカのサバンナで狩猟採集生活をおくっていたころと今も同じです。そのころの人は50人から100人程度までの部族の中に生まれ、移動生活を繰り返しながら獲物を狩り、木の実などを採って暮らしていました。

常に感染症や飢餓、捕食動物との遭遇という危険と背中あわせであり、乳幼児期の死亡率は非常に高く、生き延びたとしても30~40年ほどの寿命しかありませんでした。現代において動脈硬化性の病気や癌で死ぬ人がこんなにも増えているのは、それ以外の死に至る病がほとんど駆逐されてしまい、人が80年以上も生きることが普通になったから、といえます。

利己的な遺伝子仮説
本書の中で何度も強調されているのは、自然淘汰は個体の幸せを考えるような方向には全く働いてこなかったということです。自然淘汰の唯一の目的は繁殖可能性を最大限にすることであり、その”遺伝子”が次の世代へ伝えられ、より拡散することのみを目指しています。30~40年ほどの生涯で繁殖可能性を高めるためなら、それがその後どんな不都合(病気)を引き起こす遺伝子であっても自然淘汰の圧力は受けず、次世代へ受け渡されてきたようです。

この視点からさまざまな遺伝病や生活習慣病について考察されています。著者たちの考え方のベースは「こんな不利益があるのに、自然淘汰で消えていないのは、それを上回る何らかの利益(繁殖可能性)があったからだ」ということです。精神障害についてもとりあげており、これが何らかの遺伝的要因によってひきおこされる可能性が高いことは事実です。ただし、精神障害については、まだほとんど謎ばかりという印象を受けました。

生きることは綱渡り
病気だけでなく、繁殖にともなうさまざまな戦略、妊娠、子育て、老化などについてまで進化的な考察がされています。また進化の途上でたまたま生じた結果がその後の不都合へつながったことなども書かれていて、進化は目標や計画があって進んだのではなく、その時々の妥協の産物であることが示されています。

癌を扱った章で、生体ががん細胞を抑え込むことがいかに至難の技かということに触れています。病原菌と戦うためと同時に、こうした内部の擾乱に備えるためにも、私たちの身体は免疫という非常に高度なシステムを発達させてきました。生きていることはあたりまえのことではなく、つねに細い綱の上をバランスをとりながら歩いているようなものなのだ、ということです。


病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解
病気はなぜ、あるのか―進化医学による新しい理解
ランドルフ・M. ネシー ジョージ・C. ウィリアムズ 長谷川 真理子

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コメント

はるさん、コメントいただきありがとうございます。

とても面白い本でした。進化と精神障害の関係については
「天才と分裂病の進化論」(新潮社)という本があり、そこで、
分裂病は脂質代謝と関係しているのではないかという説を
読みました。これもおもしろかったですよ。

はるさんのご専門の本で面白そうな本があればぜひまた
ご紹介ください。

現代人が苦しみに苦しんでいる生活習慣病に関連する殆ど遺伝子は、平均寿命が短かったころには殆ど淘汰の対象にはならなかったため生き残った遺伝子でして、まさしく優嵐さんがおっしゃるように、寿命の驚異的な延長に遺伝子が全く対応できていないということを示していますね。

僕の専門は薬学と医学ですが、医学書は五万とあるのに進化医学書は本書のほかに数えるばかりです。医学書を読んでも原因が理解できない疾患が余りに多く、これからもっと進化医学が発達することを期待したいです。

いつも素晴らしい本をご紹介下さってばかりですので、弟子である僕も師匠に良い本をご紹介できるよう、今後とも精進いたします。

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