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2005年10月 2日

戦略の本質

◇◆第127回◆◇

4532194628戦略の本質 (日経ビジネス人文庫)
野中 郁次郎 戸部 良一 鎌田 伸一 寺本 義也 杉乃尾 宜生 村井 友秀
日本経済新聞出版社 2008-07-29

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不利な状況から逆転するための戦略とは
まえがきにも記されていますが、本書は日本軍がなぜ敗れたのかを研究し、名著の誉れ高い『失敗の本質』の姉妹編です。成功体験に過剰適応したため、失敗を回避できなくなったというのが前著の主張でした。では、逆転するためには何が必要なのか、不利な状況に追い込まれたとき、そこから抜け出して勝利をつかむための戦略とは何かについて、考察したのが本書です。

ここでは圧倒的に不利な状況から逆転して勝利につなげていった毛沢東の中国紅軍、ドイツ空軍の空爆をしのいで第二次世界大戦の戦局を転換させたチャーチルのイギリス軍、スターリングラード攻防戦を耐え抜き、ドイツ軍を逆に包囲して勝利したソビエト軍、圧倒的に物量で勝るアメリカ軍に負けなかった北ベトナム軍の戦い方などが逆転の本質を明らかにしていて、興味深く読めました。

相手の強みを殺し、自分の弱みを強みに変える戦い方を選ぶ
これらは中国をのぞけば祖国防衛戦という性格を持っています。地の利を生かし、迅速に勝利はしないが負けることもない戦いを継続し、相手の消耗を待ちました。北ベトナムのゲリラの戦い方はその極致といえます。最新鋭兵器で武装した米軍をジャングルでのゲリラ戦に誘い込み、軍同士では比較にならないほどの力の差を1対1の兵士のレベルにまで引き下げて、そこで戦うことを選んだのです。

相手の強みを殺し、自分の弱みを強みに変えることができる戦い方を選ぶ、それはスターリングラード攻防戦でも見られました。空爆と戦車の進撃、それに続く歩兵の機動力、この三つを組み合わせた電撃戦がドイツの強みでした。スターリングラードでは空爆によってできたがれきの山が皮肉なことに戦車の進撃の障害になり、ソ連軍が物陰にひそんでドイツ軍を迎え撃つ格好の遮蔽物になりました。ここでソ連軍は少人数での白兵戦を挑んだのです。

物量や兵器の面で不利な状況にあっても逆転をなしえたことの背景には優れたリーダーシップがありました。彼らはその戦争の「大義」を国民に示すことができ、人心を掌握するすべに長けていました。アメリカのベトナム戦争における敗北は、アメリカ人の血を流してベトナムで戦争をすることの意味は何か、ということを国民に納得させられなくなったからだろう、と思います。

人心掌握に長けたリーダーが必要
人心を掌握することは、戦略の上で非常に大事だということがよくわかります。リーダーが持っているビジョンを組織の成員に的確に伝える、それはいつの時代でも強力な武器になります。こうした能力に秀でていたリーダーとして、チャーチルと毛沢東があげられています。彼らは古典文学や歴史への造詣が深く、そこから物語のレトリックを取り出して、人々に示してみせたのです。

戦略は相手と自己を知るという分析能力、場面に応じて戦術を転換できる柔軟性、組織が向かうべき方向を明確に示す言語能力、組織を構成する人々をその気にさせられる人心掌握力など、が複雑に重なり合ったものと考えられます。これらのことを一身で体現している人間はほんとうに稀有な存在であろう、と思います。

戦略の本質 (日経ビジネス人文庫)
戦略の本質 (日経ビジネス人文庫)
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