« 体内の神秘 | トップページ | プロカウンセラーの聞く技術 »

2005年7月 9日

眼の冒険

◇◆第93回◆◇

4314009829眼の冒険 デザインの道具箱
松田 行正
紀伊國屋書店 2005-04-27

by G-Tools

脳は無意味なものには耐えられない
本書はグラフィックデザイナーである著者が、隔月刊誌『デザインの現場』に1997年4月号から2004年4月号まで連載した42本の原稿を加筆修正してまとめたものです。格ページに多くの図版が使われていますが、私はまずその小口に印刷された意味ありげな図に気をとられました。知っている文字でもなければ、何か具体的なものを描いた図形とも思えません。それでいて、単なる模様とも思えないのです。

また、これは表紙側にページ全体を曲げると赤い図として、背表紙側に曲げると青い図として眺められるようになっています。これがいったい何なのか、は本文の261pに書いてあるのですが、そこへ至るまでも私は何度も気になって、小口を右に曲げ、左に曲げしてしまいました。

デザインという分野からの切り口で話が進むのですが、私はむしろこの本を読んで人間の脳というものは無意味なものには耐えられないシステムなのだ、と知りました。視覚や聴覚は無数の光や音の中から意味のあるものを選択し、生存に役立てています。「明確に形が定まらない状態からなんとか意味のある図を立ち上がらせようとしている」のです。これを脳の体制化・補完作用と呼ぶそうです。

それが意味のあるものなのかそうでないのか、そして意味があるならばどういうカテゴリーに属しているものなのか、ということを私たちの脳はあらゆる感覚器から入ってくる情報に対して、そうした編集の作業を続けているのです。これは生存に欠かせない能力であり、人間の中に深く根を下ろしているものだといえます。

イメージの魔術
「眼の冒険」というよりも本書の内容としては「イメージの魔術」と言ったほうが適切かもしれない、と思いました。最終ページにナチスのニュルンベルク党大会、ベルリンオリンピックのフィナーレと、9/11のテロで破壊されたワールドトレードセンター崩壊跡地でおこなわれた光のモニュメントの模様が並んで掲載されています。いずれもサーチライトを天空にむけてまっすぐに照射し、この世のものならぬ荘厳な存在を暗示するのに非常な効果をあげたものと思われます。

WTC追悼のデザイナーがニュルンベルクの「光のカテドラル」を知っていたかどうかはここでは触れられていませんが、巨大さ、高さ、シンメトリーを適切に配置すれば「荘厳なもの、畏怖すべきもの、自己の身をゆだねるにふさわしいもの」という人間のイメージを呼び起こすことは意外に簡単なのかもしれない、と少し恐ろしくなりました。


眼の冒険 デザインの道具箱
眼の冒険 デザインの道具箱
松田 行正

関連商品
et(エ)―128件の記号事件ファイル
ZERRO
線の冒険 デザインの事件簿
図地反転
ストーリー・ウィーヴィング
by G-Tools

« 体内の神秘 | トップページ | プロカウンセラーの聞く技術 »

絵・デザイン」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 体内の神秘 | トップページ | プロカウンセラーの聞く技術 »