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2005年7月25日

ウォールデン 森の生活

◇◆第101回◆◇

4093874956ウォールデン 森の生活
ヘンリー・D. ソロー Henry D. Thoreau
小学館 2004-04

by G-Tools

読みやすい訳
ソローの『森の生活』は今まで2度手にしたことがあります。しかし、どれも最後まで読みきることができず、投げ出していました。本書はアメリカ文学の古典であり、思想書であり、マサチューセッツ州コンコードの自然誌でもあります。その雰囲気だけでも、私には憧れの本だったのですが、これまでは、そのもってまわったような言い回しにどうしてもついていけませんでした。

この本はソローが27歳でウォールデン池のほとりに家をたて、ひとりで森に移り住んで暮らした2年余りの体験と思索を後に振り返ってまとめたものです。彼はハーバード大学で教育を受け、古代ギリシャ、ローマ、東洋の思想にも親しむ知識人です。その一方、故郷コンコードの自然を愛し、そこで生きる動物や植物たちの生態に細やかな目を向けています。

彼はもちろん魚を釣ったり、かつては猟もした経験を持っていますが、この当時はすでに菜食主義者になっていたようです。彼は自然の営み全体を大きなつながりのあるものとしてとらえ、20世紀の環境保護思想にいたる源流を作りました。彼の文章の読みにくさの原因は、ひとつの文章が非常に長く、そこに彼が備えていたギリシャ・ローマや東洋思想に関する教養を盛り込んでいることからきているように思えます。

訳者の今泉氏はその点に配慮し、長い文章を途中で短く分けたり、わかりにくい文には随所に訳注をつけるなど、ソローのとっつきにくいところをうまく料理して少しでも読みやすいものにするよう工夫しています。すでに150年前に書かれた文章であり、時代背景が今とは大きく異なっているだけにこうした訳者の姿勢は評価できます。

簡素に生き、その中で最高の経験をする
ソローは大学教育を受けながら定職にはつかない生活を選びました。彼の生き方はその時代、肯定されるものではなかったようですが、彼は「人並みの暮らしを支えるための労働」というものにほとんど価値をおいていませんでした。彼は簡素に生き、その中で最高の経験をしようとしていました。

ソローは言います。
「大多数の人は、軽薄な心の動きとつまらぬ誤解から、仲間同士の争いや、なんのためにもならぬ 過酷な労働に呻吟しています。そのため大多数の人は、人生が生み出す最高の果実を手にできません」

「私たちが日々のくらしで手に入れている最高に価値のある真の収穫は、朝夕の空の彩りのように、手にもできなければ、描き表すこともできません。私が手に入れた小さな星屑や虹のひとかけらも、その価値を人に伝えるのは至難です」

「ジョンはこう考えました!余計ないっさいを捨ててしまおう。簡素に暮らし、知恵を自分の体に注ぎ、自分の体を救い、自分を大切にする気持ちを作っていこう!」

「人は夢に向かって大胆に歩みを進め、心に描いた理想を目指して生きようとするなら、普通の暮らしでは望めない思いがけない高みに登ることができます。かつての生き方の不要な部分をすっかり捨て去り、見えない心の境界を越えることができます」

シンプルライフという考え方が一般的になったのは、現代の日本では20世紀も終盤に入ってからのことでしょう。しかし、ソローはそれを150年前に提唱していました。もっとも、日本文化の基礎には「簡素」こそ最上のものであるという思想がずっと息づいていました。茶室、俳句、水墨画などにそれらは端的に現れています。

日の出とともに起き、一汁一菜をいただき、書を読み、四季の移り変わりを楽しむという静かな生活、そういうものに自分はずっと憧れてきたことが本書を読むことによっていっそうはっきりしました。

ウォールデン 森の生活
ウォールデン 森の生活
ヘンリー・D. ソロー Henry D. Thoreau

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