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2004年9月12日

のばそう健康寿命

◇◆第47回◆◇

4007001030のばそう健康寿命 (岩波アクティブ新書)
辻 一郎
岩波書店 2004-02-07

by G-Tools

平均寿命から健康寿命へ
日本は現代世界一の長寿国です。これは戦後日本の医療、公衆衛生の大きな成果でした。しかし、今、ほぼ全員が80歳近くまで生きるという世の中になって、新たな課題が浮かび上がっています。寝たきりや痴呆にともなう介護問題をどうするのかということです。「安心して寝たきりになれる社会を」という医療者もいます。確かにそれはひとつの理想でしょう。しかし、誰もができることなら元気で最後までいきいきとくらしたいと願っているはずです。

こうした願いを受けて、近年保健医療の分野で注目を集めているのが『健康寿命』という考え方です。健康寿命とは、自立して健康に暮らすことができる期間のことです。著者の辻一郎は東北大学大学院医学系研究科教授、専門は老化の疫学、保健医療の技術評価で、高齢者の健康増進と疾病(障害)予防に向けたプログラムを地域で展開しているこの分野の第一人者です。

老化には運動不足の面も
彼はこの本の中で、「老化のスピードは個人差が大きいものであり、様々な工夫で変えられることを知った」と述べています。これは誰もが持っている実感でしょう。16歳の人はみなほぼ同じくらいに見えますが、これが30歳、50歳、70歳と年齢があがるにしたがって、見かけの年齢や、機能年齢が大きくことなっていくことにお気づきでしょう。70歳でエベレストに登る人もいれば、歩くのもやっとの人もあります。では、その差はどこから生まれてくるのでしょうか。

本書の中で辻は脳血管疾患の予防や転倒防止といった従来から保健衛生分野では常識であったことに加えて、運動の重要性を大きくとりあげています。極端に言えば、「老化は単なる運動不足」の側面も持っているというのです。もちろん年齢とともに運動機能のある程度の低下は免れえません。人がもっとも老化を痛感するのは「去年までできていたことが、今年は難しい、できない」と感じたときです。その結果やる気や自信をなくし、運動しなくなり、それがさらなる機能の低下を呼ぶという下向きのスパイラルを加速させてしまうのです。

いくつになっても運動は効果がある
「今さら」という言葉をよく聞きます。この年になって今さらということなのですが、辻は運動を始めるのに遅すぎる年齢というものはない、といっています。事実、高齢者への運動の有効性が確かめられたのは、90年代半ばのアメリカの老人ホームにおけるウエイトトレーニングでした。すでに歩くのもやっとという高齢者に定期的な筋力トレーニングをしてもらった結果、すべての高齢者の筋力が増強し、身体能力がアップしました。むしろよぼよぼ度が高い人の方が運動の効果が大きかったというのですから、これは朗報です。

健康と生き方のつながり
ただ、本書の最後に、辻は今の日本を覆う「健康幻想」とでもいうものにもひとこと苦言を呈しています。昨今は健康ブームでサプリメントやなんとかセラピー、○○食品など次々とよくこれだけあるなと思えるほどの健康関連商品が出回っています。しかし、そこには「自分は何も変わらず、そこに何かを付け足して健康という状態を手に入れたい」という都合のいい考え方が見えます。しかし、それでは「健康」の本当の意味はないというのです。

なぜ健康でいたいのか、を考えるとき、どうありたいのかと無縁ではいけません。辻は医療思想家ルネ・デュボスの『健康という幻想』からこんな言葉をひいてきます。「人が求める健康とは単に身体的な活力と健康観に満ちた状態とは限らないし、長寿を全うするということでもなく、それは人生の理想や目的を成就するために最も適した心身の状態である」健康と生き方とは切り離せない問題なのです。

そして最後に生物学的限界近くまで寿命が延びた現在、この先の医療が目指すのは創造的な老い、そして健やかな終末をすべての人に提供することではないかと辻は言います。そして、そのためには、社会のあらゆる立場の人が考え、社会全体の課題として取り組み、社会制度、政治、文化そのものを変革していく必要があるとしめくくっています。

のばそう健康寿命 (岩波アクティブ新書)
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