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2004年8月28日

ヨーロッパ思想入門

◇◆第45回◆◇

4005004415ヨーロッパ思想入門 (岩波ジュニア新書)
岩田 靖夫
岩波書店 2003-07-19

by G-Tools

ヨーロッパ思想の本質
この本で著者は、ヨーロッパ思想の本質を語ろうと意図したと述べています。2000年にわたって展開されたヨーロッパ哲学の流れを少年少女向けに解説した本書は、大人にとっても優れた入門書になっています。私は本書を読んで初めて、ヨーロッパ哲学の骨格をおぼろげながらにでも見せてもらったと思いました。

ギリシャ思想とヘブライの信仰
ヨーロッパ哲学は大きなふたつの礎石の上に載っています。それはギリシャ思想とヘブライの信仰です。まずギリシャ思想の本質について、それは人間の自由と平等の自覚であると著者は述べます。この自覚に基づいて生まれたのがデモクラシーであり、21世紀になってもなお、全地球規模では実現していない理想です。ギリシャ人が人類に遺した最大の遺産といえます。

ギリシャ思想の第二の本質は理性主義にあります。それはこの世界、生成流転する多彩な現象世界の底に普遍的な法則や秩序を見出そうとする姿勢です。ここからあらゆる科学が生まれてきました。

ヘブライの信仰はユダヤ教として生まれ、キリスト教として世界に広まりました。その基本にあるのは唯一の超越的な神がすべてのものの創造主であるということです。つまりアニミズムを否定し、自然世界から魔力的なものを消し去ったということです。この考え方が後にヨーロッパに自然科学が成立する背景になりました。

この信仰の第二の基本はこの創造主たる神が自分の似姿として人間を創造したということです。神はなぜ世界を創り、その頂点に自己の似姿の人間をおいたのか、その理由は神が愛だからだというのです。愛は他者を求めます。神は愛の相手として人間を創造し、対等な、自由な存在者としての人間を創造したのです。ここに人間のかけがえのなさの理由があります。

ヘブライの信仰の第三の基本はイエスによって示されたこの神の限りない優しさにあります。イエスは罪、加害、暴力に対して、復讐ではなく、徹底的な「赦し」で対するよう説きました。その極限が「敵を愛し、己を迫害するもののために祈れ」という教えです。これこそがキリスト教の核なのです。

驚くべきことに、創造主であるキリスト教の神は「極限の無力」と記されています。なぜなのでしょうか。この世は悪に満ちています。神はなぜヒトラーを罰しなかったのでしょう。神の名において人殺しをする人々をなぜ懲らしめないのでしょうか。それは神が極限の非暴力だからです。その意味では極限の無力なのです。

では、なぜ極限の無力なのか、それは、自由なものを殺すことはできても同化したり支配したりすることは誰にもできないからです。人間は自由であり、自由なものには呼びかけることができるだけだからです。呼びかけに対する応答が返ってくるかどうかは他者の自由にかかっています。神なのに? いいえ、神だからこそなのです。イエスは全世界の忘恩を背負う善意そのものの神がそこにいるのだと教えたのです。

目には目をというのは大変わかりやすく、子どもでも理解できる考え方です。人間もずっとこの考え方でやってきました。イエスが神の愛を説いて2000年、それでも、彼の言うことを心から理解できる人は少数派でしょう。不公平ではないかという思いが沸き起こるのです。しかし、目には目をという素朴な復讐の論理が現代も続く果てしない民族紛争の泥沼を世界各地で引き起こしているのを見れば、このやり方に先はないと思わざるをえません。

ヨーロッパ思想が示す社会がいつかこの世に実現する日がくるのでしょうか。それはわかりません。しかし、自由と平等、そして赦しということなくしては人類はこの地球に共存していけなくなっています。「人間自身が人間のうちから吹き上げる善の息吹に鼓吹されて善き行為をなす。そこに神の栄光があらわれるのである」というリトアニア生まれのユダヤ人思想家レヴィナスの言葉で本書はしめくくられています。


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