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2003年11月 9日

革命について

◇◆第15回◆◇

448008214X革命について (ちくま学芸文庫)
ハンナ アレント Hannah Arendt
筑摩書房 1995-06

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人々の自由を本質とする活動の重要性
鮮やかな表紙です。白枠に囲まれた真っ黒な地に「革命について」の 白抜き文字。「革命」の字だけは真っ赤です。両端に白抜きのスタンプ の文字のような"Hannah Arendt"と"On Revolution"が配されています。 ハンナ・アレントは1906年生まれのユダヤ系ドイツ人政治思想家です。 ハイデガーやヤスパースに学んだのち、ナチスの迫害を受け、アメリカ に亡命しました。ナチズムやスターリニズムなどの全体主義を生んだ現代社会の病理を究明し、対等な対話をする空間、そこで生まれる人々の自由を本質とする「活動」こそが大切であると説きました。

成功した唯一の革命
本書は主にアメリカ独立革命―独立戦争ではなく、そこに全く新しい社 会を作ろうとし、それが継続されたということから、これこそ唯一の成功した革命とアレントはみなしているようです。―とフランス革命についての考察です。フランス革命は成功した革命と思われていますが、ア レントの解釈では最終的に恐怖政治の混乱を引き起こし、革命の子ども たちを革命自身がむさぼり食ってしまった失敗例ということにな
ってい ます。

20世紀は革命と戦争の世紀でした。ロシア革命を筆頭にそれらの革命の すべてが最終的には圧制と恐怖政治へと向かってしまったのはなぜなの でしょうか?アレントはそこに「貧困とそれによる社会問題の解決」が、 「自由を保障する政治体の創設」よりも優先されたということを見ます。 唯一アメリカ革命が曲りなりにも成功したのは、そこに貧困のくびきが なく、建国の父たちは、社会問題に押しつぶされずに「自由の構成」と いう政治目的に向かうことができたからだというのです。

アメリカ独立戦争が一般には「革命」とみなされていないことこそが、 その後の革命の失敗を物語っています。アメリカ独立革命の失策のひと つは、その革命の精神を後世に伝えることができなかった、ということ です。本書の初版が書かれたのは1963年、すでに40年前です。しかし、 彼女の思想は古びるどころか、むしろ冷戦終結後の現代社会でこそその 主張が真剣に検討されるべきときに来ているといえ
そうです。

古代ポリスに見る政治活動
アレントは自由を有する政治活動のあり方の古典的モデルとして、古代 ギリシャのポリスをあげています。ポリスのあり方は専制政治とは異な りますし、現代の多くの政党政治とも異なっています。それはもっと人 びとが直接お互いの顔を見て、話し、聞き、語り合った空間なのです。

ポリスが現代社会にそのままあてはまるとは思えません。しかし、現代 の日本のように、すでに「貧困」の問題は大方克服し、むしろ政治的無関心が広がりつつある社会において、アレントの主張は、次の政治体制 のありかたを考えるのに大変重要なヒントを含んでいるのではないか、 と思えます。

かつて貧困が克服されれば、すべての人々は幸せになり王道楽土が広がると考えられていました。しかし、現実は違っていました。当然でしょう。生きていくということは、重荷であるのです。アレントはソポクレスの晩年の詩を本書の最後にひいてきています。

  この世にうまれないことが、
  すべてにましてよいことだ。
  生まれてきたからには次善のことは
  生まれたもとのところにすみやかに戻ることだ。

――しかし、ソポクレスは、アテナイの伝説的な創始者であり、したが って、その代弁者であったテセウスの口を通して、何が老若ふつうの人びとを生の重荷に耐えさえたのか、ということもわれわれに教えてくれている。それは人びとの自由な行為と生きている言葉の空間、ポリスであった。それが生に輝きを与えることができたのであった。――

生に輝きを与えることができる空間をどう創設するか、これは21世紀の 先進国すべての課題であるのかもしれません。

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